SAP SAP BTP Hackathon 2026 ファイナリスト座談会 Vol.1
本記事では末尾に用語注釈を掲載しています。文中に不明な用語がありましたら、あわせてご参照ください。
はじめに
「SAP BTP Hackathon 2026」は、SAPジャパン株式会社の主催するパートナー/お客様向けのハッカソンイベントです。5年目の開催となった今年のハッカソンは、54社70チーム422名が参加されました。
本ブログは「SAP BTP Hackathon 2026」において、一次選考を通過し、ファイナリストとなったTISI株式会社様(以下、TISI)、アクセンチュア株式会社様(以下、アクセンチュア)、アビームシステムズ株式会社様(以下、アビームシステムズ)の3社によって行われた座談会についての記事です。
イベントの流れとしては、2026年5月よりイネーブルメントセッションを実施し、同年6月より1週間のハッカソンを行いました。その後SAPジャパンによる選考を経て、7/3(金)に一次選考を突破したファイナリストチーム6組が集まり、たくさんの参加者やSAP社員が見守る中で、渾身のプレゼンテーションを行い、最優秀作品とチームを決める最終選考イベントを実施いたしました。
今年のハッカソンのテーマは、「業務プロセスを再設計せよ。〜 最強の“相棒”と創る、省力化と高度化のネクストステージ 〜」」でした。このテーマにおいて、ファイナリストに選定された6社様を2組に分け、座談会という形で現在の率直な思いを赤裸々にお話しいただきました。
【編集注】本ブログ公開時点で、SAP Business Technology Platform (SAP BTP)(※1)はSAP Business AI Platform に名称変更されています。 本文中のSAP BTP やSAP Business Technology Platformはすべて 現在のSAP Business AI Platformに相当します。 「SAP BAIP」および「BAIP」は SAP 公式な呼称としては認められていないため、 本ブログでは旧略称「SAP BTP」をそのまま使用しています。
チーム/座談会参加者紹介
1.TISI株式会社様
写真左から順に、
馬場冬太氏:産業公共事業本部 ERP コンサルティング第 1 事業部 エンタープライズコンサルティング第 2 部 チーフ。ERP ビジネス領域にて Oracle EBS の購買・販売領域を中心に約 10 年従事し、PL や開発チームリード を担当。その後 SAP の周辺システムおよびインターフェース領域を中心に約 7 年携わり、近年は SAP S/4HANA・BTP 関連案件の推進に従事。本ハッカソンではデータ基盤の整備やシステム連携周りなど、開発側 の実装領域を中心に担当。
森麻沙樹氏:産業公共事業本部 ERP ビジネス推進部 エキスパート。ERP ビジネス領域にて SAP BASIS および 生成 AI 活用を担当し、約 15 年にわたり SAP 関連業務(HEC や RISE のプリセールス含む)に従事。現在は 生成 AI の企画・技術推進や人材育成を担い、SAP BTP や Joule を活用した AI エージェント開発にも注力。本ハッカソンでは AI 領域全般の統括、および SAP BTP 各種ソリューションを組み合わせたアーキテクチャ設計を担当し、企画アイデアを技術・サービスとして具現化する領域をリード。
有木秀悟氏:産業公共事業本部 ERP コンサルティング第 1 事業部 エンタープライズコンサルティング第 2 部 エキスパート。SAP 導入プロジェクトに約 10 年従事し、生産・販売物流領域を中心に複数の案件でプロジェク トマネジメントや開発チームリードを担当。近年は SAP S/4HANA・BTP 関連案件の推進に携わる。本ハッカソ ンではチームの窓口・事務局として、チーム活動全体の運営や進行管理を担当。
藤本堅太朗氏:産業公共事業本部 ERP コンサルティング第 1 事業部 エンタープライズコンサルティング第 2 部 エキスパート。ERP ビジネス領域にて SAP 導入案件の提案・企画構想から導入までを担当し、20年以上にわ たり製造業、商社、鉄道、監査法人など幅広い業界の新規導入案件を経験。主に財務会計/管理会計をリード し、業務・会計とシステムの双方の視点から支援を実施。本ハッカソンではビジネスアイデアの創出およびシ ナリオ設計を担当し、ソリューション全体のストーリー構築と価値訴求を牽引。
このほか、板東 高志氏(CAP・OData V4 によるサービス実装)、田畑 博光氏(アイデアの補完と、AI 駆動開発 の推進)、中嶋 愛佳氏(UI5 アプリの UI 設計)、森山 全氏(過去のハッカ ソン参加経験をもとに知見を共有)を加えた計 8 名がチームを構成しています。
2.アビームシステムズ株式会社様
写真左から順に、
樅山将人氏(スペシャリスト):ソリューションビジネスユニット 経営基盤グループ所属。SAP周辺システムのBI領域を中心に、ロジスティクス関連データを扱うシステムの要件定義、開発、運用保守に従事。
伊與田幸介氏(アシスタント):ソリューションビジネスユニット 会計ソリューショングループ所属。SAP BW領域の運用保守やアップグレードプロジェクト、および SAP 会計領域の開発・運用保守を担当。
和田晶氏(アシスタント):ソリューションビジネスユニット 経営基盤グループ所属。SAP 会計領域を中心に運用保守、子会社ロールアウトなどに約2年間従事。
森下望美氏(アソシエイトマネージャー):ソリューションビジネスユニット サプライチェーンソリューショングループ所属。SAP導入・運用保守・アップグレードプロジェクトに約10年従事。SCM領域を中心に、複数のSAP案件でプロジェクトマネジメントやチームリードを担当。
駒瀬真子氏(スタッフ):ソリューションビジネスユニット サプライチェーンソリューショングループ所属。SAPロジスティクス領域を中心に、運用保守・ABAP開発に約4年従事。
3.アクセンチュア株式会社様
写真左から順に、
谷村要氏(Technology Consulting Principal):デジタルコア・SAP Data Development&Testing所属。数多くのプロジェクトでSAP BTPの設計開発管理・SMEを担当。
尾濵智子氏(Business Agility Assoc Manager):サプライチェーン&エンジニヤリング・S&P所属。業務・システムの視点からSAP Aribaなど調達購買系システム導入支援を担当。
インタビュー内容
Q1.改めてになりますが各社の作品紹介を簡単にお願いします。
1.TISI株式会社様
ソリューション概要/アーキテクチャ図
藤本氏(TISI): 経営層に現場の情報が高い解像度で上がってこない、というのは多くの企業が抱える課題だと思います。その原因は人間の組織である以上の宿命のようなもので、リアルタイムの情報収集も、一人の人間が多角的に判断することも物理的にできません。
でも、AIエージェント(※1)を入れたらできてしまうのでは、というのが出発点です。特徴は、3つのAIペルソナが同時に解釈を行う点です。言い方を変えると、私たちは「AIが最適解を提案する」ということに非常に懐疑的なのです。その解決策として、異なる3つの意見を出し、最終的に判断するのは人間。スコアリングもしないし、優劣もつけない。このコンセプトを守った形でソリューションを設計しました。
外部情報の収集も含め、SAPが提供している各種機能をできる限りすべて活用して動かす、というコンセプトで組み上げています。アーキテクチャ図の右上にあるAI層には7個のAIエージェントを配置していて、3つのペルソナはそれぞれ並列で動きつつ、全体をオーケストレーションするメインのエージェントと有機的につながっています。
森氏(TISI): こだわった点としては、SAPが掲げるAutonomous Enterprise(※2)の文脈を体現するショーケースとなるソリューションを目指したことです。また、今回のようなシナリオに限らず、汎用的に使える仕組みにすることも意識しました。
設計の前提として「AIは信用ならないもの」と定義し、AIはあくまでワーカーとして動かす。その上にオーケストレーター(※3)がいて、最下層には普遍的なデータ層がある。
そのデータできちんと情報を収集・分析し、判断材料として人が承認する。Human-in-the-loop(※4)の仕組みを設け、小さくても動くものをフルスコープで実装しきった点が、私たちの強みだと考えています。
2.アビームシステムズ
ソリューション概要/アーキテクチャ図
森下氏(アビームシステムズ): 私たちは現場の在庫管理に着目し、食品業界の期限管理、具体的には期限が迫った在庫の扱いと廃棄ロス削減を担うエージェントを作りました。これまで人が行っていた在庫の確認から、その在庫をどうするかの判断・実行までを、Joule(※5)が自律的に進めます。効果としては、コスト削減、廃棄するはずだった在庫を売上に変えること、そして廃棄ロス削減によるESG対応を挙げています。
一番のポイントは、業務プロセス全体を再設計したことです。これまで人が複数のシステムを使って行っていた業務を、Jouleが一気通貫で実行できるようにしました。加えて、クリーンコア(※6)やFit to Standard(※7)、誰でも操作できるUIなど、これからのERPに求められる要素を短期間で具現化できたと思っています。
現状の課題は2つあります。倉庫担当者は大量のロットを確認しなければならず、期限管理に手間がかかる。そして、期限間近の在庫が見つかっても、SCM担当者が過去事例を調べたり、販路変更のために営業と調整したり、上長の承認を得てERPに登録したりと多くのステップがあり、リードタイムが長くなる。その結果、廃棄ロスにつながってしまいます。
To-Beでは、まずJouleが期限間近の在庫ロットを検出して一覧表示します。対応したいロットを選ぶと、過去実績などから値引き、販路変更、転送、フードバンクへの寄付といった最適な行き先を提案。そこで人が確認・承認すると、Jouleがワークフローを回し、ERPへの登録まで自律的に行います。
従来、こうした課題にはアドオンを作って対応する発想が主流だったと思いますが、Jouleを使うことでアドオンを作らず、スタンダードを維持したままエンドツーエンドのプロセスを実行できるエージェントにできました。アーキテクチャもとてもシンプルで、ほぼコーディングせずに標準機能で実現しています。基本的にはJoule Studio(※8)、SAP Build Work Zone(※9)、SAP Build Process Automation(※10)を使い、SAP S/4HANA(※11)と接続して構築しました。
チームは若手中心で、普段は別々の仕事をしているメンバーが集まっています。それぞれが持っている現場の課題感を話し合いながらプロセスをつなげ、このエージェントに仕上げました。
3.アクセンチュア株式会社様
ソリューション概要/アーキテクチャ図
谷村氏(アクセンチュア): 出発点は、端的に言うと「売れるものを作りたかった」ことです。地政学リスクはSAPに関わる企業なら誰もが直面する「あるある」なので、まずこれを取り上げました。もうひとつ、今年はどの会社も似たアイデアを出してくるだろうと考えていました。巷では、ERPを裏側に置き、表でエージェントがどんどん動いて、人が何も触らなくても業務が進む「ゼロタッチオペレーション」(※12)が技術的には実現できる状況です。
ただ実際にそれをやると、内部統制や、判断が適切かどうかといった問題が出てくる。だからこそ、適切なタイミングで人の判断を挟むことが大事になる。この2つを掛け合わせて作りました。ゼロタッチで動いた結果がいったん人に集約され、人の決定をもとにまた裏でエージェントが動く。要所要所で意思決定が挟まるのが、これからのビジネスプロセスの形になると考えています。各社のアイデアが似通ってくる中、アクセンチュアにしかできないこととして、ERP導入で蓄積してきた知見をプレイブックとしてナレッジ化し、AIエージェント(※13)の判断材料に組み込みました。インターネットの情報や自社のERPデータだけでは判断しきれない部分を、これでカバーできます。
構成としては、調達部門や生産部門など部門ごとのエージェントがあり、その結果を人が判断し、再度オーケストレーションしていく形です。外部情報については、ニュースサイトのMCP(※14)サーバーを使う方法もありましたが、できるだけSAP標準を使いたいという思いがあり、たとえばSAP AribaのAPIを使って市況情報を取り込むなど、標準を意識して作りました。
Q2.互いの作品に聞いてみたいことはありますか?
TISIへの質問
和田氏(アビームシステムズ): 意思決定までの時間が15分に短縮されるとのことですが、出てくる答えは、人間が考えるものと同レベルなのでしょうか。それとも、より高度なものになるのでしょうか。
藤本氏(TISI): 人間でも、時間をかけて材料を集めて判断すれば、同じ答え、あるいはそれ以上の答えにたどり着く可能性は高いと思います。ただ、それが圧倒的に早くできる。そこが一番の効果です。前段の情報収集も、これまでなら誰かがボールを持ってヒアリングして回っていたところを一気に進められます。
森下氏(アビームシステムズ): 3人の別人格が話し合って判断の偏りをなくすという発想がすごいなと思いました。どういう経緯でその発想に至ったのでしょうか。
藤本氏(TISI): 最初に思いついたのは「AI社外取締役」でした。社外取締役は、他の人の意見や他業界の経験を取り入れるための存在ですよね。一人だと、その意見を受け入れるか否かという単純な話になる。二人でも、たとえばリスクをどれだけ取るかという対立構造にしかならず、あまり面白くない。じゃあ三人がちょうどいいだろう、と。そうなると三者それぞれに違う視点を持たせる必要がある。古今東西いろいろ当てはめてみて、最終的に今の形になりました。社外取締役については、優秀な人材がなかなかいない、いてもガバナンスにどれだけ実効性があるのか、という社会課題もあります。であればそこをAIでいけるのではないか、というのがアイデアの原点です。
谷村氏(アクセンチュア): 3つのエージェントが判断する元データは、ERPの中のデータだけですか。また、それぞれの性格はどう分けているのでしょうか。
森氏(TISI): データはERPだけでなく、外部の市況データなども取り込んでいます。判断の元になるデータは3つとも同じで、違うのは判断軸、価値観です。性格は、自然言語でこういう性格を持つと定義し、三つ組みになるよう設計しました。理念のようなものを主軸に性格付けをしつつ、バランスよく、偏りなく参照できるように、振る舞いをロジックとして書き込んでチューニングしています。人間の性格や思考、判断軸を言語化して人格を作るイメージです。実は『エヴァンゲリオン』のMAGIシステムも少し意識しています。思考やロジック、マインドセットといった軸は個人で違うものなので、そこが色濃く出るように、あえてかなりピーキーにしています。
尾濵氏(アクセンチュア): 感想になりますが、経営層が抱えるリスクにアプローチし、人の手をできるだけかけずに短時間でソリューションを出す、というベースはアクセンチュアとかなり似ていると感じました。一方で、3つのペルソナというアイデアは私たちにはなかったので、面白いなと。
藤本氏(TISI): 世の経営者は、何も言わずに最適な一案を出してくれよ、と思っているはずなので、実はアクセンチュアさんの方がウケるのでは、とうっすら思っています(笑)。
尾濵氏(アクセンチュア): 私たちもAIが出すものに対しては懐疑的で、それがすべてではなく、きちんと人が判断すべきだと考えています。でも、「これが答えです」と言われるより、いろいろな意見があるほうが面白い。自分で選択することが大事なんですよね。甘やかさない、というか。
森下氏(アビームシステムズ): 3つのペルソナは、具体的にどう違うのですか。
藤本氏(TISI): 名前はあくまでイメージで、モチーフとしたアリストテレスの弁論術の定義に厳密に沿っているわけではない、という前提でお話しします。「パトス」は、簡単に言うとイケイケドンドン。どうすれば利益を得られるか、ビジネスに夢を持っているタイプで、経営者が一番共感しやすい。「ロゴス」は論理の塊で、「営業利益をこれだけ伸ばそう」と言われたら「根拠は?」と返す。リスクを冷静に見て判断します。ただ、この二人はどちらも経済合理性の延長線上にいる。第三の軸「エトス」は経済合理性ではなく、企業の存続やビジョン、従業員が幸せかどうかといった別の視点から、その企業にとって何が最適かを考えます。
森下氏(アビームシステムズ): エトスがいい味を出していますね。ここが一番大きな変数になりそうです。経営者自身の人格を反映させるようなチューニングもできそうですね。
藤本氏(TISI): そのとおりです。企業独自の変数を一番反映しやすいところですね。
アビームシステムズへの質問
SAP: アドオンを作らずに、とのことでしたが、厳密には、従来のようにSAP S/4HANA側にアドオンを入れるのではなく、SAP BTPやAIエージェントといった外側に拡張機能を作ることで、SAP S/4HANAに手を入れずに必要な機能を実現した、という理解でよいでしょうか。
森下氏(アビームシステムズ): はい、その通りです。コーディングはほとんどしておりません。
SAP : 審査の段階で見たとき、アーキテクチャがあまりにシンプルなので、どこかに何か書き込まれているのではないかと思って見ていました(笑)。食品業界を選んだのは、業界や業務に知見があったからですか。
森下氏(アビームシステムズ): 食品業界のお客様の保守を担当していることもありますし、期限管理はいろいろな業界にありますが、食品が最も厳しいと考えました。効果を考えたとき、食品業界が一番効果的だろうと判断しています。
藤本氏(TISI): 新しい販路の提案や適切な値引きの設定といった判断は、あのシンプルな仕組みのどこで整理しているのでしょうか。
森下氏(アビームシステムズ): 期間内では複雑な分岐まで作り込めず、現状はルールベースです。値引きであれば過去実績を参照し、さらに値引き率も人が選べるようにしています。今後は、この価格で売ればいくらの利益になるかを計算させて最も利益率の高い案を提案させたり、外部の取引先と連携して評価させ、販路変更先を提案させたりといった拡張も考えています。ルールはJouleスキル(※15)の中に入れています。
森氏(TISI): AIの観点で、どこまでをエージェントに任せ、どこからをプログラムやワークフローに任せているのか、設計思想を聞きたいです。
森下氏(アビームシステムズ): 現状、エージェントはスキルを起動させるだけの役割になっています。ユーザーが「賞味期限アラートを表示して」と言ったら、この順番でスキルを起動する、という指示にしています。それだと物足りない使い方なので、今後はエージェントが自ら考えて適切なスキルを呼び出し、その結果をもとに判断するような使い方をしたいと考えています。
谷村氏(アクセンチュア): 出発点は「クリーンコアにしたい」だったのでしょうか。それとも、標準を触ってみたら意外といけた、という流れでしょうか。
森下氏(アビームシステムズ): 後者です。実際にツールを触ってみると、ワークフローの受信ボックスでの通知や、Jouleの一覧出力など、かゆいところに手が届く標準機能が意外と揃っていることがわかりました。作り込むより、標準を使い倒したほうが早いという結論に至りました。
谷村氏(アクセンチュア): 同じことを私たちがやろうとすると、まずカスタマイズから入ると思います。素直にクリーンコアを守るところから入っているのが素敵だと思いました。
アクセンチュアへの質問
森氏(TISI): 似たような話になるという懸念は私たちも持っていて、いかに差別化するかがポイントでした。来年のハッカソンでは、コーディングエージェントの性能も上がって、もっと高度なものが出てくるはずです。そうなると、自社の強みは何か、という独自性で戦う時代になる。今回のアクセンチュアさんの作品は、まさにアクセンチュアさんらしいプロダクトだと感じました。共感することが多かったです。
馬場氏(TISI): 私たちもコンセプトが近いと思いながら、あまりの壮大さに驚きつつ聞いていました。5日間をどう過ごしたのか、以前にベースとなる取り組みがあったのかを、答えられる範囲で教えてください。
谷村氏(アクセンチュア): 以前、ゼロタッチオペレーションをお客様に提案したことがあり、そこで「人の判断が入らないと困る」というお話をいただいていました。アイデアのベースはそこでできていましたが、ものづくり自体は5日間でゼロから作りました。
開発にはほとんど力を入れていなくて、そこが優勝できなかった要因かもしれません(笑)。画面もカスタムのSAP Fiori(※16)で、ルールベースで作っています。取り立てて難しいものはなく、裏側では標準APIを呼ぶなど、なるべく標準を使うことを意識しました。
5日間のうち2日ほどはアイデア出しに使いました。一番時間を使ったのは、実は動画とプレゼン資料の作成です。開発物はAIでどんどん作れますが、スライドや動画をうまく作ろうとすると、AIがなかなか言うことを聞いてくれない。そちらはほぼ手作りでした。
SAP: SAP Signavio(※17)をどう使っているのかも気になりました。
谷村氏(アクセンチュア): ハッカソン期間の途中でSAP Sapphire(※18)があり、その発表の中で、SAP Signavioをこれから本格的に活用していく、というメッセージがあったと解釈しました。人間の意思決定をビジネスプロセスとしてSAP Signavio側に戻していき、「この会社はこういう判断をするから、AIの提案もこうなる」という形で使っていく。これからは意思決定そのものをビジネスプロセスとして管理していかなければならない、というのが込めたいメッセージだったので、組み込んでいます。
SAP : ハッカソン期間の直前・直中にSAP Sapphireがありましたが、各社ともSAPの最新メッセージをすごく取り入れていると感じました。社内で最新ナレッジを共有する体制があるのでしょうか。
谷村氏(アクセンチュア): 今年のSAP Sapphireは特に大きかったと思います。普段はあまり発表を追っていない人も含めて注目度が高かった。それぞれキャッチアップした内容を意見交換し、発表内容はまだふわっとしたものも多かったので、実際のものづくりに落とすならこういう要素が必要では、と議論していました。
森氏(TISI): リアルタイムで、集まれる人が集まってみんなで見ていました。ああでもない、こうでもないと言いながら、ワールドカップ観戦みたいになっていました(笑)。
SAP : 確かに今年のSAP Sapphireは発表内容がすごかったですね。社員10年目の私でも驚きながら、一生懸命書き留めてキャッチアップしていました。10月末のSAP TechEdで、どんな新しいものが出てくるかも注目ポイントです。
森下氏(アビームシステムズ): 各部門の担当者がモバイルから入力できる仕組みになっていて、現場でも使えるようになっていますね。そういう発想にはどうたどり着いたのですか。
谷村氏(アクセンチュア): 最初は調達リスクの話から入りましたが、エージェントを稼働させてシステムから情報を吸い上げて判断するのは、調達部門に限りません。リスクをテーマにすれば当然会計にも影響するし、いろいろなところに波及する。それで縦にどんどん広げていきました。
森下氏(アビームシステムズ): 私たちは点を線で終えてしまったのに対し、アクセンチュアさんは部門や現場と経営をつなげて面にしている、という話をチームでしていました。TISIさんは3つのエージェントが異なる観点で判断するのに対し、アクセンチュアさんはモジュールごとのエージェントが判断し、それを人間が見る。そういう違いがあるんですね。
Q3.AI時代に求められる人材をどのように育成していくべきだとお考えですか?
森氏(TISI): ゼロタッチの話が出ましたが、今後は人が判断しなくていい部分はすべてゼロタッチになり、経営者や上位層が判断すべきことにきちんと承認を入れる、という考え方や、そこを設計するコンサルティングが大事になると思っています。SAP Sapphireなどを見て「こういう戦略だから自分たちもこうしないといけない」となったとき、それをリードする人材が必要です。ただ、業務だけをやっていると、そこに踏み込もうと思わない人も多い。そういう人材を戦略的に増やすには、どうチームを組み、新しい領域に取り組めばいいのか。皆さんはどうしていますか。
谷村氏(アクセンチュア): はっきりした答えではないのですが、今回のハッカソンを通じて、結局はビジネスプロセスが大事だと感じました。AIに詳しい人を入れるのももちろんひとつですが、SAPのビジネスプロセスを理解していないと、技術的にゼロタッチができても「それはそこでやっちゃダメなんだよ」ということが絶対にある。従来のビジネスプロセスをきちんと語れる人がいて、テクニカルな人が各プロセスに対して何ができるかを一緒に議論していく。それが大事なのだと思います。
SAP : SAPとしても、パートナーのどんな方にJouleなどのAIツールを触っていただくのがいいかを考えています。プラットフォーム側の開発者はもちろんですが、今おっしゃったように、アプリコンサルのような業務アプリ側を知っている方が、AIを使って自ら開発領域にも手を伸ばせるようになる。これまでアドオンなどを別チームに任せていた部分を自分で触れるようになることで、生産性が上がり、お客様にとって意味のあるものを作れるようになるのでは、というのが私たちの仮説です。以前、ABAPのスキルしか持たない方をクラウドの世界でどう育てるか、というテーマがありましたが、それがAIでさらに加速していると感じます。
Q4.実際にSAP BTPを使ってみて使いやすかった点、難しかった点を教えてください。
谷村氏(アクセンチュア): 正直に言うと、ハッカソン期間中に限れば、開発という観点ではClaudeをそのまま使ったほうが圧倒的に早い、というのが見えていました。Joule Studioの機能が充実してくればゲームチェンジしていくだろう、というのは見ていてわかりましたが。一方で注目しているのは、先ほど話に出たSAP Signavioのような、SAPファミリー製品同士の連携です。外から入ってくるツールには追随できない部分なので、このファミリー親和性をもっと活かしていくことが、一番のバリューだと思います。
尾濵氏(アクセンチュア):壁になったのは、必要なAPIがまだないことで、やりたいことはあっても諦めた部分がありました。
谷村氏(アクセンチュア):これから新しいJoule Studioがリリースされ、SAPランドスケープの中で簡単にエージェントを作れるようになると、また話が変わってくると思います。
伊與田氏(アビームシステムズ): 私は今回初めてSAP BTPで開発しましたが、標準機能やUIがしっかり用意されていて、ローコードで開発できる点はとても使いやすかったです。難しかったのはエージェント部分です。私たちのソリューションはスキルをエージェントが呼び出す形ですが、エージェントが思うように呼び出してくれないことがあり、プロンプトを書き換えてはチェックして、を繰り返しました。今後もノウハウを蓄積していきたいです。
森下氏(アビームシステムズ): 基本的にノーコードで作りましたが、SAP BTPのアクションやJouleのスキル、エージェントを細かい部品として作れるので、拡張性が高いと感じました。他の機能を組み込むのも容易ですし、変更にも強い。お客様と話しながらその場で変えていける使い方もできそうです。
SAP: 海外の事例を聞くと、デモの回数が増えたとよく言われます。SAPはこれまで、長大な提案資料でお客様の経営にどう貢献するかを語り尽くしてから、システムの話をする、というスタイルが多かった。AIで素早く形にできるようになった今、日本でも実際に動くものを見せながら会話していくアプローチが増えていくと思います。
森氏(TISI): SAP BTPの良さは、SAP S/4HANAとの親和性だと思います。Side-by-Side(※19)拡張などさまざまなプロダクトがある中で、統合された基盤の上にあること、SAP BTP Booster(※20)を使いワンクリックでソリューションを統合できることのわかりやすさがいいですね。Claude Code(※21)のようなツールはもちろん優秀ですが、取り入れる際にはガバナンス、セキュリティ、データの持ち方といった戦略やルールが課題になる。それらをトータルで考えると、SAPのスタンダードに寄せたほうがよい場面は多い。組み合わせ方はA2Aなどで広がりがあるので、いかに使いこなすかに力を注ぎたいと考えています。
使っていて感じたのは、AIエージェントの裏で呼ばれているLLM(※22)が一世代前のモデルだったことです。より新しいモデルを使えれば、そこまでコンテキストを作り込まなくてもオーケストレーションがうまく動いたはずです。ここはどんどん良くなっていくと思うので、期待しています。
馬場氏(TISI): 使ってみて、Joule AgentとClaude CodeのようなAI Agentでは、設計思想そのものが少し違うと感じました。Joule Agentは、大量の業務データを扱う前提で、アクセスできる範囲や役割を制限したり、ガードレールを設けたりといった部分がしっかりしている印象です。
森氏(TISI):使い分けが必要ですね。また同時に、考慮すべき制約も出てくるはずです。今回はデモだったのでその違いがあまり見えませんでしたが、本格的に使ったときにどうなるのかは、今後R&Dで確かめていきたいと思っています。
Q5.開発にあたりどのようにAIを活用したか教えてください。
森氏(TISI): 開発だけでなく、戦略立案の段階から使っています。SAP Sapphireの情報やハッカソンの評価軸を読み込ませてアイデアを採点させる、といった技術戦略にも使いました。開発環境はこの5日間で用意したわけではなく、以前からSAP BTPで開発するための仕組み、いわゆるハーネスを組んでいました。SAP BTPの操作、パラメーター設計、Web操作、テストまで、全般をClaude Codeでできると考えていて、そこも自動化しています。
開発もAIエージェントを組んで自律駆動させ、ウォーターフォールやアジャイルといった改善サイクルも自動化しました。まず仕様駆動(※23)開発で、皆のアイデアから設計書を作り、そこからテスト駆動開発でテストまで自律的に回す。成果物は私たちがHuman-in-the-loopで確認し、デモできる状態かをチェックしていました。
つまり、新しい技術を自分たちが学習してアウトプットするというより、それをいかにAIにやらせるかを教え込む、というアプローチでした。その過程で「こうやって実装するのか」「このパラメーターでこう動くのか」と逆に私たちが学ばせてもらった。SAP BTP経験者も初心者もいる中で、同じ品質、同じ能力で開発できる環境ができていたので、100%動くものをあれだけ作れたことを証明できたと思っています。プレゼン資料も含めて、ほぼ99%はAIと一緒に作りました。
森下氏(アビームシステムズ): 社内の他部署に向けてハッカソンの作品を発表したところ、Jouleが動くのを初めて見た人が多く、すごく反応が良かったです。クリックするだけでプロセス全体が進むところに感動した、という声をたくさんもらえて嬉しかったです。
SAP: 現場の皆さんが知ってくださったことで、ご提案の中で使っていただく機会も増えるでしょうし、参加者の皆さんが持ち帰った知見を社内に広めていただけるのは、このイベントの大きな効果だと思っています。まさに私たちの意図を体験していただけて、ありがとうございます。
谷村氏(アクセンチュア): ものを作るという点では、AIは何でも作れてしまいます。ただ、今回ナレッジグラフ(※24)を使ったのですが、実は私は最初「要らないだろう」と言っていたんです。アーキテクチャのアイデアのようなものは、放っておいてもAIはなかなか出してくれない。AIに与えるためには、人間がそもそも知っていないといけないので、期間中はそういうキャッチアップをかなりしました。最初に作ったアーキテクチャに抜け漏れや矛盾がないかを判断するのも人間です。普通の開発はAIに任せ、アーキテクチャの判断やビジネスストーリーを磨くことにこそ力を使いました。
Q.参加を迷っている方へ背中を押す一言を、各社からいただけますか
谷村氏(アクセンチュア): 昔と違って、ものづくり自体にはもう価値がないと思っています。1〜2年前なら難しい画面を作ってくれば「すごい」となったと思いますが、今はどれだけ難しい画面を作っても「AIで作ったんでしょ」となる。AIを使えば、実質アイデアソンに近いので、ノウハウがなくても誰でも出られます。アイデアがすべてです。
森下氏(アビームシステムズ): 知見が浅い段階でも、ワークショップなどを通じてSAPの情報やエージェントについてキャッチアップしながら学べて、開発まで進めることができました。SAP BTPに取り組んでいる人はまだ多くないので、希少性も高いです。ぜひ積極的にチャレンジしてほしいと思います。
有木氏(TISI): 実は私たちもメンバー的には初出場で、上長から「ハッカソンというのがあるらしいから、メンバーを集めて目指してみないか」と言われて始まりました。自慢にもなりませんが、私はこれまでコードを一行も書いたことがありません。それでもさまざまなメンバーに声をかけて編成し、挑むことができました。森たちが説明した通り、今回のハッカソンで私たちは誰一人としてコードを書いていないと思います。アイデアが非常に重要で、それを実現する仕組みは今や手軽に使えるようになっています。技術的なハードルで悩んでいるなら、そのハードルはないですよ、とお伝えしたいです。
もうひとつ、先日のインタビューでもお話ししましたが、いろいろな情報提供をいただけることは非常に大きいです。ワークショップを受けるまで、私はソリューションについての知見がまったくありませんでしたが、世の中にこういうものがあるのだと気づけたし、それをきっかけに自分でも調べることができた。参加するだけでも得られる価値は十分にあります。ぜひチャレンジしてください。
おわりに
ファイナリスト3社の皆さまとの座談会を通じて、同じ「AIエージェントと人の意思決定」というテーマでも、三者三様のアプローチがあることを肌で感じました。また、各社が互いの作品に質問を重ね、率直に語り合う姿から、ハッカソンが競い合う場であると同時に、パートナー同士が学び合う場にもなっていることを実感しました。技術が目まぐるしく進歩する今、SAP Business AIが生み出す価値は、これからさらに広がっていくと確信しています。本記事が、ハッカソンへの参加を迷っている方、SAP BTPやAI活用にこれから取り組もうとしている方にとって、最初の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。(SAP 中村)
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SAP BTP Hackathon 2026 最優秀賞個別インタビュー
用語注釈
(※1)SAP Business Technology Platform(SAP BTP):データ管理、アナリティクス、AI、アプリケーション開発、プロセスの自動化、統合機能をクラウド上で一元的に提供するSAPのビジネスプラットフォーム。2026年4月よりSAP Business AI Platformに名称変更。
(※2)Autonomous Enterprise: AIを活用して業務の自律化を進める企業像を示すSAPのビジョン。
(※3)オーケストレーター:複数のエージェントの実行順序や連携を統括する役割のエージェント。
(※4)Human-in-the-loop:AIによる処理の途中に、人間の確認・判断を組み込む設計。
(※5)Joule:日常的な自然言語による指示から業務データの照会、インサイト抽出、プロセス実行までを支援するSAPの基幹AIコパイロット。
(※6)クリーンコア:ERP本体への独自改修(アドオン)を避け、標準に近い状態を保つ考え方。
(※7)Fit to Standard:業務をシステム標準に合わせることで、カスタマイズを最小限に抑える導入アプローチ。
(※8)Joule Studio:SAPのAIソリューション「Joule」を拡張するだけでなく、AIエージェントやカスタムスキルの設計・構築・実行・管理を包括的に支援するSAPのAI開発ソリューション。ウェブUIとCLIに対応し、ローコード/ノーコードから本格的なコード開発まで幅広い開発スタイルをサポートする。
(※9)SAP Build Work Zone:複数のアプリや情報を1つの画面に集約するポータル機能。
(※10)SAP Build Process Automation:ワークフローや業務自動化をローコードで構築するツール。
(※11)SAP S/4HANA:企業の基幹業務をリアルタイムに統合管理する、SAPの次世代エンタープライズERPスイート。
(※12)ゼロタッチオペレーション:人の操作を介さず、システムやAIが業務を自動で進める運用。
(※13)AIエージェント/マルチエージェント:目的に応じて自律的にタスクを実行するAI。複数のエージェント
(※14)MCP(Model Context Protocol):AIモデルが外部のツールやデータにアクセスするための共通規格。
(※15)Jouleスキル:Jouleが実行できる個別の機能・処理の単位。
(※16)SAP Fiori:直感的で統一感のある操作性を提供するSAPの標準デザインシステム、およびUIフレームワーク。
(※17)SAP Signavio:業務プロセスの可視化・分析・管理を行うSAPのソリューション。
(※18)SAP Sapphire/SAP TechEd:SAPが毎年開催する大型イベント。SAP Sapphireは主にビジネス・戦略、SAP TechEdは主に技術領域の発表の場。
(※19)Side-by-Side拡張:ERP本体に手を入れず、SAP BTPなど外部のプラットフォーム上で機能を拡張する方法。
(※20)SAP BTP Booster:SAP BTP上のサービスやソリューションのセットアップを自動化する機能。
が役割分担して連携する構成をマルチエージェントと呼ぶ。
(※21)Claude Code:Anthropic社が提供する、AIがコーディング作業を行う開発ツール。
(※22)LLM(大規模言語モデル):大量のテキストで学習した、文章の理解・生成を行うAIモデル。
(※23)仕様駆動開発/テスト駆動開発:先に仕様書を作り、それを起点に開発を進める手法/先にテストを書き、それを満たすように実装する手法。
SAP SAP BTP Hackathon 2026 ファイナリスト座談会 Vol.1本記事では末尾に用語注釈を掲載しています。文中に不明な用語がありましたら、あわせてご参照ください。はじめに「SAP BTP Hackathon 2026」は、SAPジャパン株式会社の主催するパートナー/お客様向けのハッカソンイベントです。5年目の開催となった今年のハッカソンは、54社70チーム422名が参加されました。 本ブログは「SAP BTP Hackathon 2026」において、一次選考を通過し、ファイナリストとなったTISI株式会社様(以下、TISI)、アクセンチュア株式会社様(以下、アクセンチュア)、アビームシステムズ株式会社様(以下、アビームシステムズ)の3社によって行われた座談会についての記事です。イベントの流れとしては、2026年5月よりイネーブルメントセッションを実施し、同年6月より1週間のハッカソンを行いました。その後SAPジャパンによる選考を経て、7/3(金)に一次選考を突破したファイナリストチーム6組が集まり、たくさんの参加者やSAP社員が見守る中で、渾身のプレゼンテーションを行い、最優秀作品とチームを決める最終選考イベントを実施いたしました。 今年のハッカソンのテーマは、「業務プロセスを再設計せよ。〜 最強の“相棒”と創る、省力化と高度化のネクストステージ 〜」」でした。このテーマにおいて、ファイナリストに選定された6社様を2組に分け、座談会という形で現在の率直な思いを赤裸々にお話しいただきました。【編集注】本ブログ公開時点で、SAP Business Technology Platform (SAP BTP)(※1)はSAP Business AI Platform に名称変更されています。 本文中のSAP BTP やSAP Business Technology Platformはすべて 現在のSAP Business AI Platformに相当します。 「SAP BAIP」および「BAIP」は SAP 公式な呼称としては認められていないため、 本ブログでは旧略称「SAP BTP」をそのまま使用しています。 チーム/座談会参加者紹介1.TISI株式会社様写真左から順に、 馬場冬太氏:産業公共事業本部 ERP コンサルティング第 1 事業部 エンタープライズコンサルティング第 2 部 チーフ。ERP ビジネス領域にて Oracle EBS の購買・販売領域を中心に約 10 年従事し、PL や開発チームリード を担当。その後 SAP の周辺システムおよびインターフェース領域を中心に約 7 年携わり、近年は SAP S/4HANA・BTP 関連案件の推進に従事。本ハッカソンではデータ基盤の整備やシステム連携周りなど、開発側 の実装領域を中心に担当。 森麻沙樹氏:産業公共事業本部 ERP ビジネス推進部 エキスパート。ERP ビジネス領域にて SAP BASIS および 生成 AI 活用を担当し、約 15 年にわたり SAP 関連業務(HEC や RISE のプリセールス含む)に従事。現在は 生成 AI の企画・技術推進や人材育成を担い、SAP BTP や Joule を活用した AI エージェント開発にも注力。本ハッカソンでは AI 領域全般の統括、および SAP BTP 各種ソリューションを組み合わせたアーキテクチャ設計を担当し、企画アイデアを技術・サービスとして具現化する領域をリード。 有木秀悟氏:産業公共事業本部 ERP コンサルティング第 1 事業部 エンタープライズコンサルティング第 2 部 エキスパート。SAP 導入プロジェクトに約 10 年従事し、生産・販売物流領域を中心に複数の案件でプロジェク トマネジメントや開発チームリードを担当。近年は SAP S/4HANA・BTP 関連案件の推進に携わる。本ハッカソ ンではチームの窓口・事務局として、チーム活動全体の運営や進行管理を担当。 藤本堅太朗氏:産業公共事業本部 ERP コンサルティング第 1 事業部 エンタープライズコンサルティング第 2 部 エキスパート。ERP ビジネス領域にて SAP 導入案件の提案・企画構想から導入までを担当し、20年以上にわ たり製造業、商社、鉄道、監査法人など幅広い業界の新規導入案件を経験。主に財務会計/管理会計をリード し、業務・会計とシステムの双方の視点から支援を実施。本ハッカソンではビジネスアイデアの創出およびシ ナリオ設計を担当し、ソリューション全体のストーリー構築と価値訴求を牽引。このほか、板東 高志氏(CAP・OData V4 によるサービス実装)、田畑 博光氏(アイデアの補完と、AI 駆動開発 の推進)、中嶋 愛佳氏(UI5 アプリの UI 設計)、森山 全氏(過去のハッカ ソン参加経験をもとに知見を共有)を加えた計 8 名がチームを構成しています。 2.アビームシステムズ株式会社様写真左から順に、樅山将人氏(スペシャリスト):ソリューションビジネスユニット 経営基盤グループ所属。SAP周辺システムのBI領域を中心に、ロジスティクス関連データを扱うシステムの要件定義、開発、運用保守に従事。伊與田幸介氏(アシスタント):ソリューションビジネスユニット 会計ソリューショングループ所属。SAP BW領域の運用保守やアップグレードプロジェクト、および SAP 会計領域の開発・運用保守を担当。和田晶氏(アシスタント):ソリューションビジネスユニット 経営基盤グループ所属。SAP 会計領域を中心に運用保守、子会社ロールアウトなどに約2年間従事。森下望美氏(アソシエイトマネージャー):ソリューションビジネスユニット サプライチェーンソリューショングループ所属。SAP導入・運用保守・アップグレードプロジェクトに約10年従事。SCM領域を中心に、複数のSAP案件でプロジェクトマネジメントやチームリードを担当。駒瀬真子氏(スタッフ):ソリューションビジネスユニット サプライチェーンソリューショングループ所属。SAPロジスティクス領域を中心に、運用保守・ABAP開発に約4年従事。 3.アクセンチュア株式会社様写真左から順に、谷村要氏(Technology Consulting Principal):デジタルコア・SAP Data Development&Testing所属。数多くのプロジェクトでSAP BTPの設計開発管理・SMEを担当。尾濵智子氏(Business Agility Assoc Manager):サプライチェーン&エンジニヤリング・S&P所属。業務・システムの視点からSAP Aribaなど調達購買系システム導入支援を担当。インタビュー内容Q1.改めてになりますが各社の作品紹介を簡単にお願いします。1.TISI株式会社様ソリューション概要/アーキテクチャ図藤本氏(TISI): 経営層に現場の情報が高い解像度で上がってこない、というのは多くの企業が抱える課題だと思います。その原因は人間の組織である以上の宿命のようなもので、リアルタイムの情報収集も、一人の人間が多角的に判断することも物理的にできません。でも、AIエージェント(※1)を入れたらできてしまうのでは、というのが出発点です。特徴は、3つのAIペルソナが同時に解釈を行う点です。言い方を変えると、私たちは「AIが最適解を提案する」ということに非常に懐疑的なのです。その解決策として、異なる3つの意見を出し、最終的に判断するのは人間。スコアリングもしないし、優劣もつけない。このコンセプトを守った形でソリューションを設計しました。外部情報の収集も含め、SAPが提供している各種機能をできる限りすべて活用して動かす、というコンセプトで組み上げています。アーキテクチャ図の右上にあるAI層には7個のAIエージェントを配置していて、3つのペルソナはそれぞれ並列で動きつつ、全体をオーケストレーションするメインのエージェントと有機的につながっています。森氏(TISI): こだわった点としては、SAPが掲げるAutonomous Enterprise(※2)の文脈を体現するショーケースとなるソリューションを目指したことです。また、今回のようなシナリオに限らず、汎用的に使える仕組みにすることも意識しました。設計の前提として「AIは信用ならないもの」と定義し、AIはあくまでワーカーとして動かす。その上にオーケストレーター(※3)がいて、最下層には普遍的なデータ層がある。そのデータできちんと情報を収集・分析し、判断材料として人が承認する。Human-in-the-loop(※4)の仕組みを設け、小さくても動くものをフルスコープで実装しきった点が、私たちの強みだと考えています。2.アビームシステムズソリューション概要/アーキテクチャ図森下氏(アビームシステムズ): 私たちは現場の在庫管理に着目し、食品業界の期限管理、具体的には期限が迫った在庫の扱いと廃棄ロス削減を担うエージェントを作りました。これまで人が行っていた在庫の確認から、その在庫をどうするかの判断・実行までを、Joule(※5)が自律的に進めます。効果としては、コスト削減、廃棄するはずだった在庫を売上に変えること、そして廃棄ロス削減によるESG対応を挙げています。一番のポイントは、業務プロセス全体を再設計したことです。これまで人が複数のシステムを使って行っていた業務を、Jouleが一気通貫で実行できるようにしました。加えて、クリーンコア(※6)やFit to Standard(※7)、誰でも操作できるUIなど、これからのERPに求められる要素を短期間で具現化できたと思っています。現状の課題は2つあります。倉庫担当者は大量のロットを確認しなければならず、期限管理に手間がかかる。そして、期限間近の在庫が見つかっても、SCM担当者が過去事例を調べたり、販路変更のために営業と調整したり、上長の承認を得てERPに登録したりと多くのステップがあり、リードタイムが長くなる。その結果、廃棄ロスにつながってしまいます。To-Beでは、まずJouleが期限間近の在庫ロットを検出して一覧表示します。対応したいロットを選ぶと、過去実績などから値引き、販路変更、転送、フードバンクへの寄付といった最適な行き先を提案。そこで人が確認・承認すると、Jouleがワークフローを回し、ERPへの登録まで自律的に行います。従来、こうした課題にはアドオンを作って対応する発想が主流だったと思いますが、Jouleを使うことでアドオンを作らず、スタンダードを維持したままエンドツーエンドのプロセスを実行できるエージェントにできました。アーキテクチャもとてもシンプルで、ほぼコーディングせずに標準機能で実現しています。基本的にはJoule Studio(※8)、SAP Build Work Zone(※9)、SAP Build Process Automation(※10)を使い、SAP S/4HANA(※11)と接続して構築しました。チームは若手中心で、普段は別々の仕事をしているメンバーが集まっています。それぞれが持っている現場の課題感を話し合いながらプロセスをつなげ、このエージェントに仕上げました。3.アクセンチュア株式会社様ソリューション概要/アーキテクチャ図谷村氏(アクセンチュア): 出発点は、端的に言うと「売れるものを作りたかった」ことです。地政学リスクはSAPに関わる企業なら誰もが直面する「あるある」なので、まずこれを取り上げました。もうひとつ、今年はどの会社も似たアイデアを出してくるだろうと考えていました。巷では、ERPを裏側に置き、表でエージェントがどんどん動いて、人が何も触らなくても業務が進む「ゼロタッチオペレーション」(※12)が技術的には実現できる状況です。ただ実際にそれをやると、内部統制や、判断が適切かどうかといった問題が出てくる。だからこそ、適切なタイミングで人の判断を挟むことが大事になる。この2つを掛け合わせて作りました。ゼロタッチで動いた結果がいったん人に集約され、人の決定をもとにまた裏でエージェントが動く。要所要所で意思決定が挟まるのが、これからのビジネスプロセスの形になると考えています。各社のアイデアが似通ってくる中、アクセンチュアにしかできないこととして、ERP導入で蓄積してきた知見をプレイブックとしてナレッジ化し、AIエージェント(※13)の判断材料に組み込みました。インターネットの情報や自社のERPデータだけでは判断しきれない部分を、これでカバーできます。構成としては、調達部門や生産部門など部門ごとのエージェントがあり、その結果を人が判断し、再度オーケストレーションしていく形です。外部情報については、ニュースサイトのMCP(※14)サーバーを使う方法もありましたが、できるだけSAP標準を使いたいという思いがあり、たとえばSAP AribaのAPIを使って市況情報を取り込むなど、標準を意識して作りました。 Q2.互いの作品に聞いてみたいことはありますか?TISIへの質問和田氏(アビームシステムズ): 意思決定までの時間が15分に短縮されるとのことですが、出てくる答えは、人間が考えるものと同レベルなのでしょうか。それとも、より高度なものになるのでしょうか。藤本氏(TISI): 人間でも、時間をかけて材料を集めて判断すれば、同じ答え、あるいはそれ以上の答えにたどり着く可能性は高いと思います。ただ、それが圧倒的に早くできる。そこが一番の効果です。前段の情報収集も、これまでなら誰かがボールを持ってヒアリングして回っていたところを一気に進められます。森下氏(アビームシステムズ): 3人の別人格が話し合って判断の偏りをなくすという発想がすごいなと思いました。どういう経緯でその発想に至ったのでしょうか。藤本氏(TISI): 最初に思いついたのは「AI社外取締役」でした。社外取締役は、他の人の意見や他業界の経験を取り入れるための存在ですよね。一人だと、その意見を受け入れるか否かという単純な話になる。二人でも、たとえばリスクをどれだけ取るかという対立構造にしかならず、あまり面白くない。じゃあ三人がちょうどいいだろう、と。そうなると三者それぞれに違う視点を持たせる必要がある。古今東西いろいろ当てはめてみて、最終的に今の形になりました。社外取締役については、優秀な人材がなかなかいない、いてもガバナンスにどれだけ実効性があるのか、という社会課題もあります。であればそこをAIでいけるのではないか、というのがアイデアの原点です。谷村氏(アクセンチュア): 3つのエージェントが判断する元データは、ERPの中のデータだけですか。また、それぞれの性格はどう分けているのでしょうか。森氏(TISI): データはERPだけでなく、外部の市況データなども取り込んでいます。判断の元になるデータは3つとも同じで、違うのは判断軸、価値観です。性格は、自然言語でこういう性格を持つと定義し、三つ組みになるよう設計しました。理念のようなものを主軸に性格付けをしつつ、バランスよく、偏りなく参照できるように、振る舞いをロジックとして書き込んでチューニングしています。人間の性格や思考、判断軸を言語化して人格を作るイメージです。実は『エヴァンゲリオン』のMAGIシステムも少し意識しています。思考やロジック、マインドセットといった軸は個人で違うものなので、そこが色濃く出るように、あえてかなりピーキーにしています。尾濵氏(アクセンチュア): 感想になりますが、経営層が抱えるリスクにアプローチし、人の手をできるだけかけずに短時間でソリューションを出す、というベースはアクセンチュアとかなり似ていると感じました。一方で、3つのペルソナというアイデアは私たちにはなかったので、面白いなと。藤本氏(TISI): 世の経営者は、何も言わずに最適な一案を出してくれよ、と思っているはずなので、実はアクセンチュアさんの方がウケるのでは、とうっすら思っています(笑)。尾濵氏(アクセンチュア): 私たちもAIが出すものに対しては懐疑的で、それがすべてではなく、きちんと人が判断すべきだと考えています。でも、「これが答えです」と言われるより、いろいろな意見があるほうが面白い。自分で選択することが大事なんですよね。甘やかさない、というか。森下氏(アビームシステムズ): 3つのペルソナは、具体的にどう違うのですか。藤本氏(TISI): 名前はあくまでイメージで、モチーフとしたアリストテレスの弁論術の定義に厳密に沿っているわけではない、という前提でお話しします。「パトス」は、簡単に言うとイケイケドンドン。どうすれば利益を得られるか、ビジネスに夢を持っているタイプで、経営者が一番共感しやすい。「ロゴス」は論理の塊で、「営業利益をこれだけ伸ばそう」と言われたら「根拠は?」と返す。リスクを冷静に見て判断します。ただ、この二人はどちらも経済合理性の延長線上にいる。第三の軸「エトス」は経済合理性ではなく、企業の存続やビジョン、従業員が幸せかどうかといった別の視点から、その企業にとって何が最適かを考えます。森下氏(アビームシステムズ): エトスがいい味を出していますね。ここが一番大きな変数になりそうです。経営者自身の人格を反映させるようなチューニングもできそうですね。藤本氏(TISI): そのとおりです。企業独自の変数を一番反映しやすいところですね。アビームシステムズへの質問SAP: アドオンを作らずに、とのことでしたが、厳密には、従来のようにSAP S/4HANA側にアドオンを入れるのではなく、SAP BTPやAIエージェントといった外側に拡張機能を作ることで、SAP S/4HANAに手を入れずに必要な機能を実現した、という理解でよいでしょうか。森下氏(アビームシステムズ): はい、その通りです。コーディングはほとんどしておりません。SAP : 審査の段階で見たとき、アーキテクチャがあまりにシンプルなので、どこかに何か書き込まれているのではないかと思って見ていました(笑)。食品業界を選んだのは、業界や業務に知見があったからですか。森下氏(アビームシステムズ): 食品業界のお客様の保守を担当していることもありますし、期限管理はいろいろな業界にありますが、食品が最も厳しいと考えました。効果を考えたとき、食品業界が一番効果的だろうと判断しています。藤本氏(TISI): 新しい販路の提案や適切な値引きの設定といった判断は、あのシンプルな仕組みのどこで整理しているのでしょうか。森下氏(アビームシステムズ): 期間内では複雑な分岐まで作り込めず、現状はルールベースです。値引きであれば過去実績を参照し、さらに値引き率も人が選べるようにしています。今後は、この価格で売ればいくらの利益になるかを計算させて最も利益率の高い案を提案させたり、外部の取引先と連携して評価させ、販路変更先を提案させたりといった拡張も考えています。ルールはJouleスキル(※15)の中に入れています。森氏(TISI): AIの観点で、どこまでをエージェントに任せ、どこからをプログラムやワークフローに任せているのか、設計思想を聞きたいです。森下氏(アビームシステムズ): 現状、エージェントはスキルを起動させるだけの役割になっています。ユーザーが「賞味期限アラートを表示して」と言ったら、この順番でスキルを起動する、という指示にしています。それだと物足りない使い方なので、今後はエージェントが自ら考えて適切なスキルを呼び出し、その結果をもとに判断するような使い方をしたいと考えています。谷村氏(アクセンチュア): 出発点は「クリーンコアにしたい」だったのでしょうか。それとも、標準を触ってみたら意外といけた、という流れでしょうか。森下氏(アビームシステムズ): 後者です。実際にツールを触ってみると、ワークフローの受信ボックスでの通知や、Jouleの一覧出力など、かゆいところに手が届く標準機能が意外と揃っていることがわかりました。作り込むより、標準を使い倒したほうが早いという結論に至りました。谷村氏(アクセンチュア): 同じことを私たちがやろうとすると、まずカスタマイズから入ると思います。素直にクリーンコアを守るところから入っているのが素敵だと思いました。アクセンチュアへの質問森氏(TISI): 似たような話になるという懸念は私たちも持っていて、いかに差別化するかがポイントでした。来年のハッカソンでは、コーディングエージェントの性能も上がって、もっと高度なものが出てくるはずです。そうなると、自社の強みは何か、という独自性で戦う時代になる。今回のアクセンチュアさんの作品は、まさにアクセンチュアさんらしいプロダクトだと感じました。共感することが多かったです。馬場氏(TISI): 私たちもコンセプトが近いと思いながら、あまりの壮大さに驚きつつ聞いていました。5日間をどう過ごしたのか、以前にベースとなる取り組みがあったのかを、答えられる範囲で教えてください。谷村氏(アクセンチュア): 以前、ゼロタッチオペレーションをお客様に提案したことがあり、そこで「人の判断が入らないと困る」というお話をいただいていました。アイデアのベースはそこでできていましたが、ものづくり自体は5日間でゼロから作りました。開発にはほとんど力を入れていなくて、そこが優勝できなかった要因かもしれません(笑)。画面もカスタムのSAP Fiori(※16)で、ルールベースで作っています。取り立てて難しいものはなく、裏側では標準APIを呼ぶなど、なるべく標準を使うことを意識しました。5日間のうち2日ほどはアイデア出しに使いました。一番時間を使ったのは、実は動画とプレゼン資料の作成です。開発物はAIでどんどん作れますが、スライドや動画をうまく作ろうとすると、AIがなかなか言うことを聞いてくれない。そちらはほぼ手作りでした。SAP: SAP Signavio(※17)をどう使っているのかも気になりました。谷村氏(アクセンチュア): ハッカソン期間の途中でSAP Sapphire(※18)があり、その発表の中で、SAP Signavioをこれから本格的に活用していく、というメッセージがあったと解釈しました。人間の意思決定をビジネスプロセスとしてSAP Signavio側に戻していき、「この会社はこういう判断をするから、AIの提案もこうなる」という形で使っていく。これからは意思決定そのものをビジネスプロセスとして管理していかなければならない、というのが込めたいメッセージだったので、組み込んでいます。SAP : ハッカソン期間の直前・直中にSAP Sapphireがありましたが、各社ともSAPの最新メッセージをすごく取り入れていると感じました。社内で最新ナレッジを共有する体制があるのでしょうか。谷村氏(アクセンチュア): 今年のSAP Sapphireは特に大きかったと思います。普段はあまり発表を追っていない人も含めて注目度が高かった。それぞれキャッチアップした内容を意見交換し、発表内容はまだふわっとしたものも多かったので、実際のものづくりに落とすならこういう要素が必要では、と議論していました。森氏(TISI): リアルタイムで、集まれる人が集まってみんなで見ていました。ああでもない、こうでもないと言いながら、ワールドカップ観戦みたいになっていました(笑)。SAP : 確かに今年のSAP Sapphireは発表内容がすごかったですね。社員10年目の私でも驚きながら、一生懸命書き留めてキャッチアップしていました。10月末のSAP TechEdで、どんな新しいものが出てくるかも注目ポイントです。森下氏(アビームシステムズ): 各部門の担当者がモバイルから入力できる仕組みになっていて、現場でも使えるようになっていますね。そういう発想にはどうたどり着いたのですか。谷村氏(アクセンチュア): 最初は調達リスクの話から入りましたが、エージェントを稼働させてシステムから情報を吸い上げて判断するのは、調達部門に限りません。リスクをテーマにすれば当然会計にも影響するし、いろいろなところに波及する。それで縦にどんどん広げていきました。森下氏(アビームシステムズ): 私たちは点を線で終えてしまったのに対し、アクセンチュアさんは部門や現場と経営をつなげて面にしている、という話をチームでしていました。TISIさんは3つのエージェントが異なる観点で判断するのに対し、アクセンチュアさんはモジュールごとのエージェントが判断し、それを人間が見る。そういう違いがあるんですね。 Q3.AI時代に求められる人材をどのように育成していくべきだとお考えですか?森氏(TISI): ゼロタッチの話が出ましたが、今後は人が判断しなくていい部分はすべてゼロタッチになり、経営者や上位層が判断すべきことにきちんと承認を入れる、という考え方や、そこを設計するコンサルティングが大事になると思っています。SAP Sapphireなどを見て「こういう戦略だから自分たちもこうしないといけない」となったとき、それをリードする人材が必要です。ただ、業務だけをやっていると、そこに踏み込もうと思わない人も多い。そういう人材を戦略的に増やすには、どうチームを組み、新しい領域に取り組めばいいのか。皆さんはどうしていますか。谷村氏(アクセンチュア): はっきりした答えではないのですが、今回のハッカソンを通じて、結局はビジネスプロセスが大事だと感じました。AIに詳しい人を入れるのももちろんひとつですが、SAPのビジネスプロセスを理解していないと、技術的にゼロタッチができても「それはそこでやっちゃダメなんだよ」ということが絶対にある。従来のビジネスプロセスをきちんと語れる人がいて、テクニカルな人が各プロセスに対して何ができるかを一緒に議論していく。それが大事なのだと思います。SAP : SAPとしても、パートナーのどんな方にJouleなどのAIツールを触っていただくのがいいかを考えています。プラットフォーム側の開発者はもちろんですが、今おっしゃったように、アプリコンサルのような業務アプリ側を知っている方が、AIを使って自ら開発領域にも手を伸ばせるようになる。これまでアドオンなどを別チームに任せていた部分を自分で触れるようになることで、生産性が上がり、お客様にとって意味のあるものを作れるようになるのでは、というのが私たちの仮説です。以前、ABAPのスキルしか持たない方をクラウドの世界でどう育てるか、というテーマがありましたが、それがAIでさらに加速していると感じます。 Q4.実際にSAP BTPを使ってみて使いやすかった点、難しかった点を教えてください。谷村氏(アクセンチュア): 正直に言うと、ハッカソン期間中に限れば、開発という観点ではClaudeをそのまま使ったほうが圧倒的に早い、というのが見えていました。Joule Studioの機能が充実してくればゲームチェンジしていくだろう、というのは見ていてわかりましたが。一方で注目しているのは、先ほど話に出たSAP Signavioのような、SAPファミリー製品同士の連携です。外から入ってくるツールには追随できない部分なので、このファミリー親和性をもっと活かしていくことが、一番のバリューだと思います。尾濵氏(アクセンチュア):壁になったのは、必要なAPIがまだないことで、やりたいことはあっても諦めた部分がありました。谷村氏(アクセンチュア):これから新しいJoule Studioがリリースされ、SAPランドスケープの中で簡単にエージェントを作れるようになると、また話が変わってくると思います。伊與田氏(アビームシステムズ): 私は今回初めてSAP BTPで開発しましたが、標準機能やUIがしっかり用意されていて、ローコードで開発できる点はとても使いやすかったです。難しかったのはエージェント部分です。私たちのソリューションはスキルをエージェントが呼び出す形ですが、エージェントが思うように呼び出してくれないことがあり、プロンプトを書き換えてはチェックして、を繰り返しました。今後もノウハウを蓄積していきたいです。森下氏(アビームシステムズ): 基本的にノーコードで作りましたが、SAP BTPのアクションやJouleのスキル、エージェントを細かい部品として作れるので、拡張性が高いと感じました。他の機能を組み込むのも容易ですし、変更にも強い。お客様と話しながらその場で変えていける使い方もできそうです。SAP: 海外の事例を聞くと、デモの回数が増えたとよく言われます。SAPはこれまで、長大な提案資料でお客様の経営にどう貢献するかを語り尽くしてから、システムの話をする、というスタイルが多かった。AIで素早く形にできるようになった今、日本でも実際に動くものを見せながら会話していくアプローチが増えていくと思います。森氏(TISI): SAP BTPの良さは、SAP S/4HANAとの親和性だと思います。Side-by-Side(※19)拡張などさまざまなプロダクトがある中で、統合された基盤の上にあること、SAP BTP Booster(※20)を使いワンクリックでソリューションを統合できることのわかりやすさがいいですね。Claude Code(※21)のようなツールはもちろん優秀ですが、取り入れる際にはガバナンス、セキュリティ、データの持ち方といった戦略やルールが課題になる。それらをトータルで考えると、SAPのスタンダードに寄せたほうがよい場面は多い。組み合わせ方はA2Aなどで広がりがあるので、いかに使いこなすかに力を注ぎたいと考えています。使っていて感じたのは、AIエージェントの裏で呼ばれているLLM(※22)が一世代前のモデルだったことです。より新しいモデルを使えれば、そこまでコンテキストを作り込まなくてもオーケストレーションがうまく動いたはずです。ここはどんどん良くなっていくと思うので、期待しています。馬場氏(TISI): 使ってみて、Joule AgentとClaude CodeのようなAI Agentでは、設計思想そのものが少し違うと感じました。Joule Agentは、大量の業務データを扱う前提で、アクセスできる範囲や役割を制限したり、ガードレールを設けたりといった部分がしっかりしている印象です。森氏(TISI):使い分けが必要ですね。また同時に、考慮すべき制約も出てくるはずです。今回はデモだったのでその違いがあまり見えませんでしたが、本格的に使ったときにどうなるのかは、今後R&Dで確かめていきたいと思っています。 Q5.開発にあたりどのようにAIを活用したか教えてください。森氏(TISI): 開発だけでなく、戦略立案の段階から使っています。SAP Sapphireの情報やハッカソンの評価軸を読み込ませてアイデアを採点させる、といった技術戦略にも使いました。開発環境はこの5日間で用意したわけではなく、以前からSAP BTPで開発するための仕組み、いわゆるハーネスを組んでいました。SAP BTPの操作、パラメーター設計、Web操作、テストまで、全般をClaude Codeでできると考えていて、そこも自動化しています。開発もAIエージェントを組んで自律駆動させ、ウォーターフォールやアジャイルといった改善サイクルも自動化しました。まず仕様駆動(※23)開発で、皆のアイデアから設計書を作り、そこからテスト駆動開発でテストまで自律的に回す。成果物は私たちがHuman-in-the-loopで確認し、デモできる状態かをチェックしていました。つまり、新しい技術を自分たちが学習してアウトプットするというより、それをいかにAIにやらせるかを教え込む、というアプローチでした。その過程で「こうやって実装するのか」「このパラメーターでこう動くのか」と逆に私たちが学ばせてもらった。SAP BTP経験者も初心者もいる中で、同じ品質、同じ能力で開発できる環境ができていたので、100%動くものをあれだけ作れたことを証明できたと思っています。プレゼン資料も含めて、ほぼ99%はAIと一緒に作りました。森下氏(アビームシステムズ): 社内の他部署に向けてハッカソンの作品を発表したところ、Jouleが動くのを初めて見た人が多く、すごく反応が良かったです。クリックするだけでプロセス全体が進むところに感動した、という声をたくさんもらえて嬉しかったです。SAP: 現場の皆さんが知ってくださったことで、ご提案の中で使っていただく機会も増えるでしょうし、参加者の皆さんが持ち帰った知見を社内に広めていただけるのは、このイベントの大きな効果だと思っています。まさに私たちの意図を体験していただけて、ありがとうございます。谷村氏(アクセンチュア): ものを作るという点では、AIは何でも作れてしまいます。ただ、今回ナレッジグラフ(※24)を使ったのですが、実は私は最初「要らないだろう」と言っていたんです。アーキテクチャのアイデアのようなものは、放っておいてもAIはなかなか出してくれない。AIに与えるためには、人間がそもそも知っていないといけないので、期間中はそういうキャッチアップをかなりしました。最初に作ったアーキテクチャに抜け漏れや矛盾がないかを判断するのも人間です。普通の開発はAIに任せ、アーキテクチャの判断やビジネスストーリーを磨くことにこそ力を使いました。 Q.参加を迷っている方へ背中を押す一言を、各社からいただけますか谷村氏(アクセンチュア): 昔と違って、ものづくり自体にはもう価値がないと思っています。1〜2年前なら難しい画面を作ってくれば「すごい」となったと思いますが、今はどれだけ難しい画面を作っても「AIで作ったんでしょ」となる。AIを使えば、実質アイデアソンに近いので、ノウハウがなくても誰でも出られます。アイデアがすべてです。森下氏(アビームシステムズ): 知見が浅い段階でも、ワークショップなどを通じてSAPの情報やエージェントについてキャッチアップしながら学べて、開発まで進めることができました。SAP BTPに取り組んでいる人はまだ多くないので、希少性も高いです。ぜひ積極的にチャレンジしてほしいと思います。有木氏(TISI): 実は私たちもメンバー的には初出場で、上長から「ハッカソンというのがあるらしいから、メンバーを集めて目指してみないか」と言われて始まりました。自慢にもなりませんが、私はこれまでコードを一行も書いたことがありません。それでもさまざまなメンバーに声をかけて編成し、挑むことができました。森たちが説明した通り、今回のハッカソンで私たちは誰一人としてコードを書いていないと思います。アイデアが非常に重要で、それを実現する仕組みは今や手軽に使えるようになっています。技術的なハードルで悩んでいるなら、そのハードルはないですよ、とお伝えしたいです。もうひとつ、先日のインタビューでもお話ししましたが、いろいろな情報提供をいただけることは非常に大きいです。ワークショップを受けるまで、私はソリューションについての知見がまったくありませんでしたが、世の中にこういうものがあるのだと気づけたし、それをきっかけに自分でも調べることができた。参加するだけでも得られる価値は十分にあります。ぜひチャレンジしてください。 おわりにファイナリスト3社の皆さまとの座談会を通じて、同じ「AIエージェントと人の意思決定」というテーマでも、三者三様のアプローチがあることを肌で感じました。また、各社が互いの作品に質問を重ね、率直に語り合う姿から、ハッカソンが競い合う場であると同時に、パートナー同士が学び合う場にもなっていることを実感しました。技術が目まぐるしく進歩する今、SAP Business AIが生み出す価値は、これからさらに広がっていくと確信しています。本記事が、ハッカソンへの参加を迷っている方、SAP BTPやAI活用にこれから取り組もうとしている方にとって、最初の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。(SAP 中村)関連記事SAP BTP Hackathon 2026 最優秀賞個別インタビュー用語注釈(※1)SAP Business Technology Platform(SAP BTP):データ管理、アナリティクス、AI、アプリケーション開発、プロセスの自動化、統合機能をクラウド上で一元的に提供するSAPのビジネスプラットフォーム。2026年4月よりSAP Business AI Platformに名称変更。(※2)Autonomous Enterprise: AIを活用して業務の自律化を進める企業像を示すSAPのビジョン。(※3)オーケストレーター:複数のエージェントの実行順序や連携を統括する役割のエージェント。(※4)Human-in-the-loop:AIによる処理の途中に、人間の確認・判断を組み込む設計。(※5)Joule:日常的な自然言語による指示から業務データの照会、インサイト抽出、プロセス実行までを支援するSAPの基幹AIコパイロット。(※6)クリーンコア:ERP本体への独自改修(アドオン)を避け、標準に近い状態を保つ考え方。(※7)Fit to Standard:業務をシステム標準に合わせることで、カスタマイズを最小限に抑える導入アプローチ。(※8)Joule Studio:SAPのAIソリューション「Joule」を拡張するだけでなく、AIエージェントやカスタムスキルの設計・構築・実行・管理を包括的に支援するSAPのAI開発ソリューション。ウェブUIとCLIに対応し、ローコード/ノーコードから本格的なコード開発まで幅広い開発スタイルをサポートする。(※9)SAP Build Work Zone:複数のアプリや情報を1つの画面に集約するポータル機能。(※10)SAP Build Process Automation:ワークフローや業務自動化をローコードで構築するツール。(※11)SAP S/4HANA:企業の基幹業務をリアルタイムに統合管理する、SAPの次世代エンタープライズERPスイート。(※12)ゼロタッチオペレーション:人の操作を介さず、システムやAIが業務を自動で進める運用。(※13)AIエージェント/マルチエージェント:目的に応じて自律的にタスクを実行するAI。複数のエージェント(※14)MCP(Model Context Protocol):AIモデルが外部のツールやデータにアクセスするための共通規格。(※15)Jouleスキル:Jouleが実行できる個別の機能・処理の単位。(※16)SAP Fiori:直感的で統一感のある操作性を提供するSAPの標準デザインシステム、およびUIフレームワーク。(※17)SAP Signavio:業務プロセスの可視化・分析・管理を行うSAPのソリューション。(※18)SAP Sapphire/SAP TechEd:SAPが毎年開催する大型イベント。SAP Sapphireは主にビジネス・戦略、SAP TechEdは主に技術領域の発表の場。(※19)Side-by-Side拡張:ERP本体に手を入れず、SAP BTPなど外部のプラットフォーム上で機能を拡張する方法。(※20)SAP BTP Booster:SAP BTP上のサービスやソリューションのセットアップを自動化する機能。が役割分担して連携する構成をマルチエージェントと呼ぶ。(※21)Claude Code:Anthropic社が提供する、AIがコーディング作業を行う開発ツール。(※22)LLM(大規模言語モデル):大量のテキストで学習した、文章の理解・生成を行うAIモデル。(※23)仕様駆動開発/テスト駆動開発:先に仕様書を作り、それを起点に開発を進める手法/先にテストを書き、それを満たすように実装する手法。 Read More Technology Blog Posts by SAP articles
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